私の恋は

打算とあの少年で形成されています──



Day light




「相変わらずシケた面しとるのぉ、柳生」
雑踏
人々の波行き交う中で
君の 声

「…仁王くん」
偶然?必然?
運命?
──滑稽な。

生憎私にそのような思想など備わっているべくもなく
そう、全ての現実には必ず理由が存在するのだと
私は知っていたのですから
「さすが、ですね」
「何がだ?」
微妙な距離を隔て私達は向かい合う
「切原くんですよ」
──つけて、いたのでしょう?
小さく、低く
呟いた私に
ゆっくりと
口許を歪め
「──ばれとったか」
君は、笑った
「ばれてますよ。詐欺師と唱われる貴方がとんだ失態ですね」
最も気付いているのは私と──柳くんくらいなものでしょうが
仁王くんはそれでも悠然と微笑みを湛え
そんなこと構わないとでも言いたいのか
どうしてか私の方が追い詰められた気分になる


「そうそう。今観て来たのですよ?ストーカーマン2」
貴方、観たがっていたでしょう?
言葉にならずに消えた
それは仁王くんが
「知っとる。俺もいた」
そう、言ったから──
それこそストーカーそのものですよ?と指摘する私に
ほんなら最後にゃ赤也を殺さなきゃいかんのぅ
依然として明るく言ってのける
私は眼鏡を押し上げた
君は口笛を吹いた
まったく。どこまでが真意なのでしょうか
どんな気持ちで映画館にいたのですか?
どんな気持ちで
スクリーンではなく
こちらを見ていたのですか?
何度か切原くんに耳打ちした
何度か切原くんに触れたかもしれない
貴方はどんな気持ちでそれらを見て
それでも、こうして
「赤也あぁいう映画好きじゃからのぅ」
嬉しそうに彼のことを話すのですね──

切原くんの隣に私がいたのだとしても
君は
そうして笑うのですね


「そんなにお好きなら切原くんと君がご一緒されたら良いのでは?」
我ながら意地の悪い提案だったと思います
──が
「俺が…赤也、と?」
「!」
どうしてなのか
私は君を傷付けたのに
そう、言葉を選んだはずなのに
「…イカン。照れる」

そんな言葉が聞きたかったんじゃない
眉根を下げ情けなく頬を赤らめる
そんな顔が見たかったんじゃない──

どうあっても君の気持ちは切原くんに続いている
私には、向かない
ひたすらにこちらを振り向かせたい
あぁ
彼もそんな気持ちだったのでしょうか
今、もう一度観れば違う見方が出来るかもしれない
ストーカーマン
先程はその行動に理解など示せなかったのに
振り向かないなら、と
心に刃が生まれる
君の言葉に研ぎ澄まされる
この鋭利な刃が
君への私の想いの結晶なのでしょうか


「柳生?」
「はい?」
「お前さんが羨ましい」
ぽつり
呟いた一言
「私が憎いですか?」
覗き込んだ瞳は笑っていた
声も明るかった
「ブッ殺してやりたいくらいにはな」
どうしたものか
私は微笑えんでいた
打算だらけのこの恋心
本当は嫉妬心にまみれていて
切原くんが憎くて堪らないのに
それでも彼を傍らに置いておくのは──
切原くんがいることで仁王くんは私を意識せざるを得ない
切原くんが光なら私は影のようなもの
君が追う切原くんの隣に私
切原くんは私が好きなようだから
きっと君はいつ私が彼を受け入れるかと
私の一挙手一投足に目を向ける
私を 見る

──最低な紳士ですね

「え?」
「いえ?なんでも」
「変な奴じゃのぅ」
呟きは喧騒の彼方へ
私はただ微笑うのみ
「あっ!しまった」
不意に仁王くんが叫んだ
「どうかしましたか?」
「お前さんに借りたノートを部室に忘れて来た」
「何てことを…」
これが些細な復讐なのだとしたら本当にとんだ詐欺師ですね
「すまんのぅ──柳生?」
「ほら、何してるのですか?急ぎましょう。今ならまだ柳くんと真田くんがいるかもしれません」
「──ぷりっ」
きっと
詐欺をされようが
君の見せたその表情が
私には現実で
深読みも何も要らない

それだけで私には理由となるのですから

「しかしお前さんも分からん男じゃな」
「何がです?」
「自分の胸に聞いてみんしゃい」
「……」
まぁ聞いたところで返る返事など決っていますが
君が好きだと
それ以外に聞こえる声など有り得ない
君は切原くんが好きだと言う
それでも
君の視線の先には

いつも 私の影が拡がるようにと──…


「急ぎましょうか、仁王くん」


私の恋は

打算と

君の恋した彼の光で

形成されているのです