例えば喧嘩して
例えば仲直りして

その後は 手を繋いで




独りよがりの小夜曲




なんて事はない。
どうせいつもの喧嘩だろうと放っておいた俺が馬鹿だった。

喧嘩の発端は些細な事。
俺が跡部と遊んだのが気に入らないと アイツが言い出したのがはじまりだった。



「別に遊んだったって、道端で会ってそのままテニスしただけだろぉ?」
「この間まで散々”アイツ嫌い”って言ってたくせに。神尾ってホントに単細胞だよね。」


「待った。なんで跡部と遊んだだけで単細胞って言われなきゃなんねーんだよ」
「何?ホントの事言っただけだけど。…大体さ。神尾ってホントに何も考えてないよね。嫌いって言ってた相手と遊ぶなんて信じられないけど。オレは絶対そういう事しないし、第一……」
「あーー!!待った!!」



「深司は何が気に入らないんだ?」



「…神尾」

「…なら別に俺がする事にいちいち文句言わなきゃいいだろ!?」



「…きらい」
「え??」

「神尾なんか大嫌い」

「な!?あぁ、そうかよ!!なら金輪際、お前とは話さねぇ!!」





なんて。意味のわからない喧嘩だった

それから、深司は3日間も学校を休んでいる。見るに見兼ねた橘さんが深司の家を訪ねたら、母親に「まだ学校から帰ったきていない」と言われたらしくて
俺達は今、深司を捜している。



橘さんから、深司の事を聞いた時は正直呆れた。

「ったく、強情ってか なんてゆーか」

第一、傷付いたのは俺の方なんだ。
気に入らないとか 嫌いだとか  そんでそのまま避けられて
一体、俺にどうしろって言うんだ。



とっ捕まえて、話を聞かなきゃ気が済まない。
あんな喧嘩、日常茶飯事なのに、今回に限って深司がいなくなった理由がわからない。



街の中を走り抜ける。見なれた風貌を捜して。

橘さんに言われた。「深司はきっとお前がみつけると思うが」皆で手分けして捜そう、と。
なんで俺なんだろう?
今、深司が一番会いたくないのは俺だって、橘さんには話したのに。



雑踏を掻き分け、裏路地に抜ける
よく考えてもればこんな人が多い所に深司がいるとは思えないな、と別の道に行こうとしたその時、携帯の着信メロディーが流れた。


「おう。どうした?深司見つかったのか?」
『いや、全然見つからないよ。そっちはどう?』
「全然、待機してる内村と桜井には連絡あったって?」
『いや、皆音沙汰なしだって。とりあえず見つけたらすぐに連絡してくれよ』
「あぁ、わかった」


『あ、あとそれから……』

「??」







電話を切ると俺は走り出した。早く、深司を見つけたくて。


…焦り過ぎたせいか、俺は足を踏み外し階段から落ちかける

「ぅわ!!!」

 ―落ちる!!!―



…そう思ったのに、体が地面に叩き付けられる感覚はしない。
そろりと目を開けると、間一髪のところで通りすがりの人に助けられたようだった。

「…っと、危ないなぁ、自分。」

「すみません、ありがとうございます…って、あれ。氷帝の忍足さん?」
「なんや、自分不動峰の神尾か。どないしたん?そんな急いで」
「いや、あの。深司…うちの学校の髪の長い奴、見ませんでしたか?」
「あぁ、あの美人な?名前は伊武っちゅーたか?」


「へぇ、美人だから覚えてたんですか?」
「まぁ、そんなとこやな…って、何?日吉、焼いてるん?」
「そんなわけ、ないでしょう?」

「…、あの?」
「あぁ、すまん。堪忍や。俺は見てへんけど…日吉、見たか?」
「いえ、俺も見ていません」

「そうですか…すみません、呼び止めて。ありがとうございました!」

「いや、今度は気ィつけてな」


そのまま二人に挨拶を交わし、俺はまた走り出す。

そういえば、あの二人 一緒にいる所をよく見かけるな。そん時はいつも深司が隣に居て…。


あぁ、そうか。
今、何となく深司の気持ちがわかった気がした。
そう、俺達もあの二人みたいに毎日一緒にいた。一番の友達っていうか、一番大切なやつっていうか 毎日一緒に居た。
3日も会わなかった事ってあったっけ?
そう思ったら、なんだか無性に深司に会いたくなって。喧嘩とか、理由とか そんな事はもうどうでもよくて


ふいに、さっきの忍足さんと日吉のやり取りを思い出す。

『何?日吉焼いてるん?』
『そんなわけ、ないでしょう?』

言い方は違えど、どことなく俺達のやり取りに似ていた。
特に、日吉の切り返し方は深司ソックリで。
もしかしたら、深司も焼きもちを焼いたんだろうか?なんて、思ったけれどその考えはすぐに消した。

「なわけないよな。」

深司に限って。




もし、深司を見つけたらなんて言おう?

そんな事を考えながら
俺は深司を捜し続ける。



モドル