すれ違ったら
その分だけ お互いの大切さが
わかるんだと思う。
例えば、この繋がれた手と手とか
例えば、当たり前に隣にある この笑顔とか。
二人きりの小夜曲
深司はただ、逃げ回っているんだと思う。
きっと俺から。
原因はもう、あの喧嘩じゃなくて
もっともっと、昔から続いているものだと思う。
だから、深司はずっと俺から、逃げ回っているんだろう。
ただ、捕まえてほしくて。
そう気付いたから…ってわけじゃないけど、
一刻も早く深司を見つけてやりたくて
俺のスピードは、更に 更に速くなっていく。
もしも深司が後ろを振り返り 確かめて
誰も追って来る気配がなかったら、寂しい思いをするんじゃないか、とか
『オレは必要無いのかもしれない』と、思っていたらどうしよう、とか
とにかく色々俺の頭の中を巡っていた。
本当に走って、走って、走り続けて
深司の姿を捜し続けた。
見慣れたその姿を。隣にいつも在ったその姿を。
そこで、俺は改めて確信した。
捜しに行く前に、橘さんが
『神尾が見つけるとは思うが』と、そう言った理由とか、
森が、電話先で言っていた
『あ、あとそれから。深司に会ったら、連絡だけくれればいいから』
その言葉とか
深く深く考えてみたら気がついたんだ。
「俺、すごい大馬鹿野郎だな」
薄暗い、小さな公園の入り口で
俺がそう呟くと、ブランコの辺りにいた人影から返答が返って来た。
「本当に…ばかだよ」
電灯の明かりの下に現れた人影に、俺は安堵の息を漏らした。
ずっと、ずっと捜していた ヒト。
「…深司、迎えに来たよ」
「遅いよ。…ばか」
「ホント、ごめん。遅くなって。
俺、鈍くてよ…そしたら、遅くなっちまったんだ。」
「…やっと、気が付いたの?」
俺はただ、『鈍くて』と言っただけなのに
深司は、俺の言いたい事を、言わなくても分かってくれる。
毎日、毎日 側にいたお前だから
一緒にいるのが、当たり前すぎたお前だから。
「あぁ、俺は深司が好きだったんだな」
「うん」
「で、深司も俺の事が好きだったんだな」
「…うん」
今まで、ずっと気がつかなかった。
当たり前に隣に居る深司を、特別だと思った事はあったけれど、
この『特別』が、恋愛感情だったなんて
ずっと、ずっと 俺は気がつかなかった。
橘さんは、俺は深司の事が好きだから
深司が俺の事が好きだから
俺が見つけると思うが、って意味で言ったんだ。
森は、深司が一番会いたいのは俺だろうからって
連絡さえしてくれればいいよって、そう言ったんだ。
3日前の喧嘩だって、深司はきちんと俺に嫌だと示してくれた。
きちんと、ソレは嫌な事だと。
俺の事が好きだから、跡部と遊ぶのが嫌だったと
深司なりに、そう言ってくれたのに。
皆、皆、気付いていたのに
俺だけが気がついていなかった。
隣に居るのが当たり前なお前は、もう俺の本当の特別だったんだって
気がついていなかった。
隣にいるのが当然で、お互いが一番大切で
俺はもう、深司以外は 本当はどうでもよかったのに
一緒にいるのが当たり前すぎて、
気付くのも遅くなっちまったけど
「ごめんな、深司」
「違うよ。オレの欲しい言葉はソレじゃない」
「え?…あ、あぁ」
「深司、
好きだよ。」
「…うん。」
深司の顔が紅色に染まっていく。
うん、すごく好きだよ。
本当に 毎日片時も離れずに一緒にいたから
自分の、この深司への感情が『好き』なんだって
気がつくのが遅くなってしまったけれど
「これからは、ちゃんと見逃さないから。深司の事も、自分の気持ちも」
「うん、そうして。じゃないと身が持たないから」
「…んぢゃ、帰るか」
「そうだね。帰ろうか」
手を繋いで 帰る道々
俺は忍足さんと日吉の話をした。
あの二人が、いつも一緒にいるのを見て
俺達もいつも一緒にいたなって、思い出せたんだよって。
あの二人が、お互いをすごく大切にしていたから
俺も気づけたんだよって。
「これから俺、忍足さん達に足向けて寝れねーなー」
「あ、忍足さんと言えば」
深司は跡部を見かけたって言ってきた。
けれどそれを報告する顔は、3日前に見た怒った表情とは違っていて
「何かあったのか?」って聞いたら
「あの人があまりにも情けない顔してたから、怒る気もなくなったんだ」
って、笑いながら言っていた。
しかも、その後手塚さんと追いかけっこ(?)をしている所を遠くから眺めていたら
本当に、馬鹿らしくなったらしい。
「手塚さんと跡部の追いかけっこってのは想像できないけどな」
「夕日をバックに青春していたよ。なんか、可愛く見えたよ。不覚にも」
「な!?深司の方が可愛いに決まってンだろ!」
「どんな怒り方だよ…」
…まぁ、青春とか追いかけっことかは深司がそう見えただけ(という事にしたい)
だろうけど。
とりあえず、この繋がれた手と手とか、
当たり前に隣にある、この笑顔とか
今はとても大切な事なんだって よくわかるから。
俺は深司が好きで、深司も俺が好きで。
それだけは、もう見逃さないから。
「じゃ、俺達も負けてられないな」
「勝ち負けの問題じゃないと思うけどね」
季節は 夏。
空に浮かぶ星さえも
二人で見るなら、大切なんだなって
やっと気付いた季節。
〜END〜
2004/8/31
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