好きだよ、と投げた言葉は虚しく辺りに響いて消えた。
どうして伝わらないのか、
どうして届かないのか、
きっと俺は気づけない。
否、気付かない。

雨の音に言葉は消えた。
雨の中に姿は消えた。

俺の中で 全てが消えた。





 コ ド ご っ こ





肌を、重ねた。
その身を 委ねた。
君のその仕草や、声に俺は心の底から嫉妬した。

この、『君』は 誰の手で創りあげられたのかと思うと
俺は嫉妬に狂い 墜ちて行くのがわかった。

ずっと好きだった君。
ずっと愛していた君。


君は、一体 誰の元で こんなにも成熟していったのか


「深司、気持ちいい?」
「…そんな事、普通は聞かないと思うけど?」


フツウ。
そう言われた瞬間、俺は狂ったように君の中へと乱暴に突き出す。
普通って何?
俺は普通なんて知らない。

今、此処に居るのは俺と君だけで 他人のいう普通など存在しない。
君に『普通』を教えた誰かに 俺は嫉妬を繰り返す。

「アキラ、痛い」

途切れ途切れに聞こえる 君の声
荒く吐き出された息の合間に聞こえる 俺の名前


君は、何度 誰かの名前をこうして呼んだのか?
こんなに淫らで 艶かしい姿を
曝け出してきたのか?

「俺の事、好きっつったら 痛くしない」
「…」
「何?好きじゃないから言えないって?」


「嘘でもいいのに」


半ば怒り任せに突き上げて 君の叫びに近い喘いだ声に
俺は酔いしれる。
まるで、身体に毒が回っていっているかのような感覚に襲われ
俺は君に酔う。


「どうなんだ?深司?」


瞳にうっすらと涙を浮かべ、堪える姿は俺をもっと興奮させた
噛み締めた唇からは 一筋 赤く光るものが見えた。



「なぁ、深司。俺は お前が好きだよ?」



「お前は?」





君は絶頂を迎え 果てた。

俺の問いに 答えないまま。




眠る君の唇の赤を舌で舐め上げた。
これで、俺の中に君の血があるのかと思うと 心の底から
嬉しいと思った。


俺の中に 君の生きる証が取り込まれた。
それは こんなにも嬉しい。



眠る君の口から聞こえた 誰かの名前など聞こえない。
俺はコドモだから 君の気持ちになど気づけない。
そして君もコドモだから 俺の気持ちには気付かない。

どこまでも我が儘で どこまでも貪欲なコドモごっこ

知らない。
君の気持ちなんて知らない。
俺を求めてきたというそれだけが事実。



「橘さん…」


君が夢の中で呼ぶ名など 知らない。

俺の側にいる。
俺の隣にいる。

それだけが真実。


「橘さん」


知らない。


「…好き」


知らない。

知らない。





〜END〜






モドル